白い息が夜闇に消える。きらきらと瞬く星空の下、猫娘はこうこうと輝く丸い月を見ていた。冬の月の光は強い。猫娘は目を細め、月に向かって手を伸ばした。風も吹かず、止まったかのように静かな森の中、猫娘の息だけが細く流れる。 外気は寒いのに、月に重ねたてのひらがどことなく暖かい。それは太陽のような暖かさではなく、もっと穏やかで、じんわり、染み渡るような、ほのかな温もり。指の隙間から溢れる光が眩しい。 丸い月は何かに似ている。それは今、心待ちにしているもので、空の彼方のあれよりもずっと近い。そうだと言えばきっと、彼は拗ねてしまうだろうけど。猫娘はくすりと笑った。 (僕はあんなに丸かあないよ。) カラン。ふいに、静かな空間に下駄の音が響く。少しずつ近づいて、だんだんと早くなっていく。猫娘は音のする方向を見た。 「猫ちゃん!」 「こんばんは、鬼太郎さん。」 「もう来てたんだ、」 猫娘が言えば、鬼太郎はふう、と息を吐いて、少し申し訳なさそうに呟いた。頬が赤くなっている。猫娘はそれに手を伸ばした。 「…猫ちゃん?」 てのひらで触れた鬼太郎の頬は、外気にさらされ冷えていて、猫娘の手よりも少し、冷たかった。 「冷たいわ。」 「猫ちゃんの手もじゅうぶん、冷たいよ。」 鬼太郎が頬にあてられたてのひらに、自分の手を重ねた。背丈は猫娘の方が上だけれど、手は鬼太郎の方が少し大きくて、骨ばっていて固い。けれど、やわらかなあたたかさを持っていて、じわり、猫娘の手の甲にぬくもりが移る。猫娘は目を細めた。 「鬼太郎さん。」 「何だい?」 鬼太郎が猫娘の、もう片方の手をとる。やわらかな暖かさが、とても嬉しい。 「今、月に触れたわ。」 丸い月は何かに似ている。夜空の月はとても遠いけれど、それは、こんなにも近い。首を傾げる鬼太郎に、猫娘はころころと笑った。 |