いつの間にか冬が終わり、肌寒さも徐々に抜け、緑と花が溢れる。暖かな日差しの中、ゆったりとした時間が、甘い匂いとともに鼻先を過ぎる。隣で猫がにゃあと鳴いた。ごろごろと喉を鳴らす練習をしてみる。さすがに無理だった。寝っ転がって背中を地につけて、ゆっくりと流れる雲を見つめる。傍らで君がくすくすと笑う。膝の上の猫を撫でていた白い指をこちらに伸ばし、何かをつまんだ。指先には小さな白い花びら。ふふふと笑って花を風にのせる君の指先を、もう一度喉を鳴らす練習をしながら見た。



空が高く日差しも眩しく。雨の時期を抜ければ、いつの間にか汗ばむ季節。緑はより茂りきらきらと光り、けたたましい虫の声がこだまする。大きな入道雲と青い空の下、冷たい川の水に足をつける。父さんが流されそうになって、二人で慌てる。暑さで麻痺した頭を抱えながら、ぼんやりと葉の擦れる音と川の流れる音を聞く。ワンピースを少しまくって川の中できょろきょろと何かを探す君を見る。しばらく後に魚が跳ねて、君の目がきらりと光る。



森が赤く色づきトンボが飛んで、夕日に恋しさを覚えながらススキ野原を抜ける。徐々に早まる夜の浸食と、風の冷たさに震えて父さんが髪の毛にもぐりこめば、どちらからともなく手をつなぐ。街の明かりはあたたかで、おいしそう。闇を潜り抜ければ僕の家。しばらくすれば薄暗いあの家にも、同じ明かりがともるはず。想像したらお腹が鳴ったので、君が笑って僕も笑った。丸くて黄色い月に兎が跳ねる。



布団をずるずると引き摺りながら窓の外をのぞけば、昨夜から降っていた雪があたりを覆っていた。白い息が口から流れて消える。父さんが布団を頭からすっぽりとかぶり、その横でここ数日入り浸っているネズミ男がすさまじい寝息をたてている。寒さで張りつめた空気がぶち壊し、と思いながらお湯を沸かすべく布団を落としネズミ男を踏み越える。洗い場に鍋と湯のみと茶碗が並んで、多分今夜も出番だよと心の中で呟く。ネズミに怒る猫を想像してひとりで笑う。



いつの間にか冬が終わり、肌寒さも徐々に抜け、緑と花が溢れる。暖かな日差しの中、ゆったりとした時間が、甘い匂いとともに鼻先を過ぎる。隣で猫がにゃあと鳴いた。寝っ転がって背中を地につけて、ゆっくりと流れる雲を見つめる。傍らで君がくすくすと笑う。膝の上の猫を撫でていた白い指をこちらに伸ばし、何かをつまんだ。指先には小さな白い花びら。ふふふと笑って花を風にのせる君の指先を見ながら、喉を鳴らす練習をしたことを思い出した。そうか、僕は君にその手で撫でてほしかったんだ。今頃気づいて、ひとりで笑う。さあ、また季節がめぐるよ。





春夏秋冬君と過ごして季節がまたひとめぐり、
僕と君が笑っているならそれが幸福と世界がまわる