「猫娘、100年ってどれくらいだろうね。」


鬼太郎の呟きに、お茶を淹れていた猫娘が顔をあげた。


「どれくらいって…、鬼太郎、100年以上生きてなかったっけ?」


首を傾げる猫娘に、鬼太郎はそうだねぇ、とのんびり呟いた。


「猫娘、きみっていくつだっけ?」
「忘れちゃったわ。」


猫娘が湯呑みを鬼太郎の前に置いた。それから、ちょうどいい温度になったお湯を目玉親父の茶碗に注ぐ。


「熱くない?」
「ちょうどいいわい。ありがとな、猫娘。」


目玉親父はのんびりと答えて、気持ち良さそうに湯船に沈んでいった。


「はい鬼太郎、親父さん…は後でかな。」


猫娘は卓袱台の上に包みを広げて、鬼太郎にすすめた。猫娘お得意のまたたびもちだ。鬼太郎はひとつ手にとって、ひとくち食べた。


「うん、やっぱり猫娘のまたたびもちはおいしいな。」
「たくさんあるからね。」
「…というか、作りすぎじゃないかい?まぁ、食べるけど。」


苦笑する鬼太郎に、猫娘は少し寂しそうに目を伏せて、すぐにいつものように笑った。


「ねぇ鬼太郎。」
「なんだい?」
「100年なんてあっというまよね。」


鬼太郎は少し目を細めて、そうだね、と笑った。


たくさんあるまたたびもち。
テーブルの三ヵ所埋めて、一ヵ所余る。
数年前から空いてしまった、一部分。
ずいぶん時が流れた気がするが、一度ついた習慣は、なかなか元には戻らない。


「鼠男でも来ないかしら。」
「珍しいね。」


鬼太郎がクスクス笑うと、猫娘もほんとだわ、と笑った。



穏やかな流れ