たとえばこれを、幼い恋と笑えるならばよかった。



(鬼太郎さん。)



耳に慣れたあのソプラノを、聞かなくなったのはいつからなのか。
長く綺麗な黒髪を揺らして、笑顔のあの子を見なくなったのは、いつからなのか。



(元気かなぁ。)



少し寂しそうに呟く鬼太郎を、見るようになったのは、いつからなのか。



(…きっと、元気よ。)



そのたびに、泣きそうになる自分を誤魔化して、笑顔を向けるようになったのは、いつからなのか。



この気持ちを、幼い恋と笑えるならばよかった。
幼い恋と笑って、次の恋にゆけるならばよかったのだ。
けれど、幼い恋は他に移ることを知らないまま、長い長い時を過ごしいつの間にか大きくなって、もう引き返せないところまで来てしまったのだ。
傍目から見れば幼いこの身も、もう随分と年を経た。
それは目の前の、鬼太郎だって。



(ユメコちゃん。)



その想いの行き着く先を、あたしは知っている。



(あの子は今、いくつ、)



幼い恋と笑えるならば、よかった。



失はれねば恋