膝を擦りむいた。あたしとユメコちゃん、二人同時に。
血は流れたけれど、それでも妖怪のあたしは二日と待たずに綺麗に治った。
けれども人間は、ユメコちゃんはそうもいかなかった。貼られた絆創膏は五日を過ぎてようやくはずれ、痛々しい赤黒の瘡蓋が、彼女の白い膝にはりついていた。


「痛そうだなぁ。大丈夫かい?」
「瘡蓋ができてるから、じきに治るわ。大丈夫よ鬼太郎さん、ありがとう。」


瘡蓋を見つめる鬼太郎が、眉を下げてユメコちゃんに尋ねた。ユメコちゃんは瘡蓋を指して笑っていたけれど、それはやはり痛々しく。あたしは下唇を噛んで黙りこくる他なかった。


ユメコちゃんが妖怪に襲われた。
捕らえられたユメコちゃんを、鬼太郎が隙を見て助け出して、あたしがユメコちゃんを離れた場所に連れていこうとした。そしたら妖怪の手が伸びてユメコちゃんの足を掴んで、手を繋いでいたあたしも一緒に転んだ。
妖怪はすぐに鬼太郎が退治したけれど、ユメコちゃんの膝からじわりと滲む血を見て、鬼太郎は痛そうな顔をした。


ごめんね、ユメコちゃん。大丈夫かい?

大丈夫よ、助けてくれてありがとう、鬼太郎さん。


二人のやりとりをぼうっと見ていたあたしの膝は、既に血が止まっていた。傷口を洗い絆創膏をはった彼女の膝が、やはり人間は脆いと知るに十分だった。既に再生を始めていた自分の膝がなんだか気まずくて、歩きづらそうなユメコちゃんを送る鬼太郎に背を向けて帰った。



痛々しい瘡蓋。苦い顔をする鬼太郎。ごめんねあたしが、ちゃんと守れていれば。綺麗に治っている自分の膝が、なんだか恥ずかしくてその一言が言えない。鬼太郎がそんな顔、する必要なんてないのに。


「痕が、残らないかな。」
「大丈夫よ、そこまで脆くないわ。」


ユメコちゃんが、笑って膝を軽く叩く。
彼女の膝から顔を上げた鬼太郎と、目が合うのが怖くて下を向いた。隠すように膝に置いた手のひらの下、瘡蓋なんかもうないのに、擦りむいたときの痛みなんて忘れたのに、真新しい皮膚の下の肉が、ちりちりと痛むよう。


(ごめんね鬼太郎、ユメコちゃん、)


口に出さない呟きは、虫の声にも敵わない。行き場のない痛みだけが、皮膚の下で疼いていた。



瘡蓋