(うわあ、綺麗だなあ)


細くて白い指先に、ベビーピンクがきらり。綺麗だって、鬼太郎が言った。あのこの指先。少し長めに伸ばされた爪は、初々しい色に染められながらも大人っぽく。
うふふ、と嬉しそうに笑うあのこの、色づいた頬を見た。それを見つめる鬼太郎の、眼差しを、頬を、見た。


そうして今、あたしは目の前の、どろりと重そうな液体の入った小瓶を見ている。ふらりと立ち寄った人間の店、やわらかなあの色は選べなかったから、はっきりと明るいピンク。白いキャップの下、よく映えて、眩しい。


(…馬鹿みたい、)


小瓶を傾ければ、まだ一度も使われていない液体が、窮屈そうにのったりと肩を寄せる。ピンク色と透明な液体が少し、分離した。


(馬鹿みたい、)


小瓶は自分で買ってきたもの。自分で望んで選んで買ってきた。理由なんて、そんなのはよくわかっている。でも、それで、どうなるの。


自分の指先を、じっと見た。どれも短く、丸く切り揃えられている。武器として使うときは長くなるが、それは鋭さを持っていて、あの艶やかなさまとはまるで違う。


(馬鹿みたい。)


何度目かの呟きは、どろり、胸の奥で傾いて、喉を通らないまま固まった。行き場のない想いはただ、目の前の小瓶に注がれる。
そっと手を伸ばして、指先で小瓶の白いキャップをつまみ上げ、あけようとして、


「…あ、」


ふいに目についた、人差し指の爪に、キャップを持つ指先の動きが止まった。丸く短い爪、その端が、いびつに欠けていた。それはほんの小さなもので、けれど、小瓶を手放すにはじゅうぶんな。
小瓶は軽い音をたてて、床に転がった。あたしは立ち上がって、爪切りをとった。
パチリ、いびつに欠けた爪が切り落とされる。いっそう短くなったその部分に合わせるために、他の部分も、パチリ。


(綺麗だなあ。)


眩しそうに目を細めた、鬼太郎の、あの言葉。その、たった一言で、あの指先は、あたしにとって一生、羨ましく苦しいものになった。


あのこの、指先のベビーピンク。そういうものだと、そういうことだと、わかってはいるけれど。


パチリ。ひとつだけ、異様に短い爪が並ぶ。愚かしいあたしの、どろりとしたものはそれ以上行き場もなく。切り落とされた残骸に涙が滲んで、床に横たわる小瓶がぼんやり、見えなくなった。




ベビーピンクにはなれない