※鬼太郎さんがちょっとあぶない感じです。














「嘘。」


うわひどいなぁ、こころのなかだけで呟いて、僕は彼女の額に自分の額をくっつけた。
金色に蜜色を流し込んだようなおおきな瞳が目の前にあって、その目は見開かれて、さも信じられないというような、疑いの眼差しを僕にむけている。ひどいなぁ、今度は声に出してつぶやいた。僕の吐息が彼女の唇にかかって、触れてはいないのになんだかへんな気分になる。


「嘘。」


もう一度、彼女が呟いた。瞳が泣きそうな感じに歪んで、ああこの表情すきだなぁなんて僕はほんとに酷い男だと思う。鼻先が、たまに触れるほど近くにいるのに、ぽろぽろとこぼれる涙が彼女スカートに染み込んでいって、ああまだだめかと思った。それはしょうがない。彼女が嘘だと呟くその根拠を、与えてしまったのは僕自身なのだから。


「嘘じゃないよ。」
「嘘。」
「…強情だなぁ。」


きみは僕がすきなんじゃなかったの、なんて言葉は今は飲み込む。そうやって何度も何度も逃げたのだから。


「すきだよ。」
「嘘。」
「嘘じゃないさ。」


逃げたのは僕。逃げたのはきみ。逃がしたのは僕。きみが逃げたって、僕がちょっと本気を出せばすぐ捕まえられる、そう思っていたけれど。


「すきなんだ。」
「嘘。」
「きみのことが、すきなんだ。」


じっとりと額に汗がにじんでくる。平熱の低い僕は、彼女の体温を奪うばかりのみだと思っていたけれど、妙な熱が浮かんできて、触れ合った部分があつい。それは幾度か僕の胸を突いた疼きのようなものに似ていて、ぐちゃぐちゃと思考を潰していく。ねぇ、わかるかい?きみがその目をさまよわせて映したものに、肺を焼くようなあつさを感じていたことを。


「すきなんだよ。」
「…嘘でしょう?」
「嘘じゃない。」


壁際に追い詰めて、逃げ道もさまよわせる視線も奪ってしまえば、後はなにが残るだろう。少し身を乗り出せば、彼女の肩がびくりと震えた。腹の底から笑みがこみ上げてくる。僕はやっぱり酷い男だ。


「すきだよ、猫娘。」


あと100万回くらい繰り返せば、彼女は信じてくれるだろうか。時間だけはたくさんあるのだから、それはそれでいいのかもしれない。


「すきだよ、」


きみの睫毛がふるりと震える。このままもっと近づけば、彼女の熱も奪えそうだ。


「き、たろ、」
「すきだよ。」


戸惑う声も聞こえないふりをして。あつさはどこにもいかないから、100万回目にきみのこころがほどけたら、きみの唇を奪わせて。





あなたの熱を