馬鹿、




「君さ、馬鹿でしょ。」


清潔なベッドに横たわるハヤトのそばで、椅子に座ったカシスはうつ向いて、呟いた。


「うん、そうかも。」


少し微笑んで、ハヤトは言った。下を向いたままのカシスが、ぎゅう、と服のすそを握る。


「痛いの嫌なくせに。」


カシスの拳を見ながら、ハヤトは答える。


「そうだな、嫌だな。」


微かにカシスの身体が震える。


「あんなの、あたし、全然へいき、なの、に…。」
「カシス。」


ハヤトの、包帯の巻かれた腕がカシスの方へ伸ばされる。頬に手が触れて、親指が唇を触った。きつく噛まれた唇からは、少し血が滲んでいた。


「ごめんな、」


ハヤトがカシスの頭を撫でる。ぽたりぽたりとカシスの膝を、涙が濡らす。


「…ばかぁ。」
「うん、ばかだ。」


優しく呟くハヤトの言葉があたたかくて、撫でる手が悲しくて、カシスは声を上げて泣いた。