「あんまり遅くまで遊んでちゃだめだぞ。こわいひとがいっぱいいるんだからな。」


暗い夜道を歩いていたイーピンは、兄がわりの綱吉の言葉を思い出した。
公園で一緒に遊んでいたはずのランボは、遊び道具の片付けをイーピンにおしつけて、さっさと帰ってしまった。
小さなシャベルとスコップ、バケツをもってイーピンは暗い夜道をひとりで歩く。公園を出たときにはまだ、夕日が道をオレンジに染めていたのに、いつのまにかこんなに暗くなってしまった。
イーピンは殺し屋であるし、たとえ変質者が寄ってこようと倒せるであろうが、暗く人気のない道と冷たい夜風に、イーピンは心細く不安な気持ちになった。
ぶるりと震えたイーピンは、早く帰ろうと駆け出そうとしたが、ふいに響いた足音に足が止まる。


こつ、こつ、こつと暗闇から少しずつ近づいてくる足音に、イーピンは冷や汗をたらした。ひとつの感情がわきあがって、身体全体を浸す。



こわいこわいこわいこわい。



走って逃げれば良いのだろうが、どうにも身体が動かない。


足音はすでにイーピンのすぐ後ろまで近づいて、影を踏もうとしている。
ばくばくと心臓が煩いくらい鳴っていて、出そうな悲鳴は喉にひっかかる。
ぎゅう、と目をつむり、イーピンが小さく縮こまったとき、


「やあ。」


よく知った声が響いた。


ばちっと弾かれたようにイーピンが振り返ると、夜道に混じる黒の学ランを羽織った雲雀がいた。
照明に照らされたシャツだけが青白く光る。


「何してるの?」


一気に緊張から解放され、安堵したイーピンはへたりと地面に座り込んだ。ガランと小さなバケツがそばに転がる。
その様子を見た雲雀は、ゆっくりイーピンに近づき、抱き上げた。


「だめだよ、こんな遅くにひとりでいちゃ。」


雲雀がイーピンの頭を優しく撫でると、イーピンは雲雀の胸に顔をおしつけた。
触れた額があたたかくて、イーピンは赤子のように雲雀にすがった。


「つなさんにも、いわれた。こわいひと、いっぱいって。」


顔を押しつけたままイーピンが小さく呟いた。

「でもひばりさん、あんしん。」


ぎゅう、とイーピンの小さな手が雲雀のシャツを掴んだ。その様子を見た雲雀は、小さく口元を歪ませた。


「へぇ、そう。」


こくりと頷くイーピンをぎゅう、と抱きしめて、雲雀はイーピンに気づかれないようにくるりと身体を反転させた。


「じゃあ、行こうか。」


イーピンが頷く。雲雀は自分にすがり、安心しきった小さな身体に、くつくつと声を出さずに笑った。



僕なら安心、ね。



暗い夜道を歩く足音が、小さくなって、どこかへ消えた。



くらいよみちにきをつけて