空高く輝く太陽を睨み、額の汗をぬぐう。
窓からこぼれた頭と腕には容赦なく光が突き刺さり、じわりと熱を帯びていた。

火照った身体のせいなのか、頭がくらくらして、心臓が妙な音をたてる。

先ほどから見つめていた校門から視線をはずして、ふりかえって応接室の自分デスクの上を見た。デスクの上には書きかけの、半分真っ白な書類とキャップの開いたボールペンが転がっていて、ため息が出た。僕は何をやっているのか。

ちらりと時計を見ると、窓際にへばりついてから30分も時間が経っていることに気づいて、ますますため息が出た。本当に何をやっているのか。熱を帯びた頭は何だかぼんやりして、上手く思考がまとまらない。


夏とは厄介なものだ。
春ならば、こうして窓際に立っていても、陽の光は穏やかで、ぼんやり暖かくて、眠気を誘うものなのに、夏の光は凶暴で、射殺すようにじりじりと、皮膚を、肉を焼いて、血までも沸騰させようとする。


汗が首筋を伝って、煮えた血が通って、どくりと心臓が音をたてる。頭までおかしくなりそうだ。いや、すでになっているのか。


これはあぶない、と思っているのに、冷えた応接室に置かれた足が、まるで凍ってしまったかのように動かなくて、熱をもった気だるい腕は窓際に溶けてへばりついたようだ。


魔物だと思った。夏の魔物。春よりも強烈な夏の太陽に潜むそれは、僕の頭を、身体を、おかしくさせるのだ。


変化のない校門を見る。むきだしのコンクリートと格子は熱そうだ。少し腰を折って、顎を腕にのせる。汗がじんわり広がって、くっつきそうだ。


このまま夏の陽に溶けてしまうか、そう思った瞬間、変化のなかった校門に、ひとつ、ぽたりとそれが現れた。


「イーピン、」


声が出た喉が熱くて、心臓がどくどくと脈打って、熱くなった血が全身を、冷えた足の先まで駆け巡る。


弁髪の少女がそろりそろりと校門から入ってくるのを確認して、僕は弾かれるように窓際から離れた。
そのまま応接室の扉を開いて、むわっと熱気の立ち込めた廊下を歩く。

はやる足と、火照った身体に、自嘲気味な笑みを浮かべる。


多分彼女も魔物なのだ。僕をおかしくさせる魔物。
窓際にへばりつくその理由が、あの小さな魔物にあるというのが、どうにもまだ信じられない。


夏は厄介。魔物が潜む。


廊下の先の小さな気配に、緩む口元も夏のせいにして、僕は魔物に会いに行った。




な つ の ま も の



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