言葉にしなくても想いが伝わるならば、どうかこの手を通して伝わってほしい。



ゆらゆらと心地よい、漂うような眠りから覚めると、困ったように僕を見つめるイーピンと目があった。


「雲雀さん、」


イーピンは少し頬をあかくして、僕の名前を呼ぶ。


「やあ、イーピン。」


ぼんやりした頭のまま僕が言うと、イーピンはますますあかくなって、下を向いてしまった。


「あの、その、」


イーピンはあかい顔のまま、手を僕の見える位置まで挙げた。
正確には、イーピンの手に絡ませた僕の手も一緒に、だけれど。


「えっと…は、離してもらえますか?」


僕は思わずむ、と眉間に皺を寄せる。イーピンはますます困ったように眉を下げた。


「なに、嫌なの?」
「そ、そういうわけじゃ…。」


あかい顔のまま視線をさまよわせるイーピンに、僕はため息を吐いて絡ませていた手を離した。
イーピンがほっとしたかのように息を吐いたので、僕はますます不機嫌な顔になった。



草食動物たちが話しているのを聞いた。イーピンは僕のことが好きらしい。それもずっと、幼いころから。
それならそれでいい。僕はイーピンのことが好きだ。相思相愛なら万々歳じゃないか。

けれど、こういう反応を見ると、どうにも自信がなくなる。

草食動物たちの話も、分かりやすすぎるらしいイーピンの態度も、彼女の口からそうだということを直接聞かないと確証が持てない。
だってもし、彼女の気持ちが違かったら?僕への「好き」が、僕と同じものでなかったら?
考えれば考えるほど、僕は口を閉ざす。言えない想いだけがただ、喉に詰まって吐き出せない。


「雲雀さん、お腹空いてませんか?」


彼女の問いに頷くと、じゃあ何か作りますね、と彼女は笑顔で立ち上がった。
そういう姿を見ると、胸の奥がきゅうきゅうして、彼女を抱きしめたい想いにかられる。

言ってしまいそうになる。

僕に背を向ける彼女の、さっきも掴んでいた手をとった。


「…雲雀さん?」


驚いたように振り向く彼女の、うっすらあかくなった頬に、想う。


彼女が欲しい。
抱きしめたいキスしたい言葉が欲しい。

もしも君が、同じ気持ちなら、


「…和食にしてね。」

僕が呟くと、彼女ははいっ、と笑顔になって、緩んだ僕の手から離れて、台所へと向かった。


言葉にしなくても想いが伝わるならば、どうかこの手を通して伝わってほしかった。


彼女はどんな顔をするだろうか。
彼女は何を言うだろうか。


残る彼女の小さな、暖かい手の感触に、なんて臆病な男だと、何も言えない僕は自嘲的に、笑った。



だって、言えない



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