カーテンの向こうに、夜の街が見える。ぽつりぽつりと明かりが見えて、いつもと同じはずのその風景は、今日はどこか寂しそうであり、暖かそうでもある、と思う。 はあ、と息を吐けば、暗闇に染まった窓が白く曇ったので、指先を窓にくっつけた。冷たい、 「イーピン。」 「きゃっ!」 ひやり、首元に手があてられて、驚いて振り向けば、ごろり、ベッドに寝転がった雲雀さんが、腕をのばしていた。 「雲雀さん。」 「何見てたの、」 雲雀さんが更に腕をのばして、窓の曇りを手のひらで拭った。少しの明かりと暗闇。雲雀さんがふうん、と興味なさそうに呟いた。 「…年末年始って、たいていは忙しいんじゃあ、ありませんでしたっけ、」 「さあね、沢田は何か叫んでたけど、知らないよ。自分の仕事は片付けたしね。」 でも後始末は草壁さんや獄寺さんがやってるんでしょう。 そう思ったけれど、首に雲雀さんの腕が絡んできたので、それ以上言葉を発することができなかった。そのままベッドに仰向けに倒されて、視線を這わせればすぐそばにはにたりと笑った雲雀さんの顔。 「あと30分くらいだけど。」 「もうそんな時間ですか。」 ちらり、時計を見る。秒針は迷うことなくかちりかちりと進み続ける。 「お蕎麦、そろそろ作りますか。」 「そうだね。」 雲雀さんは頷く。けれど、腕の力はゆるめられることなく、それどころかいつの間にか、わたしのお腹のまわりにまわされていた。 「ひばりさーん、はなしてくださーい。」 「…なんで、」 「お蕎麦がつくれません。」 わたしはもっともなことを言ったのに、雲雀さんは眉をしかめた。なんで、なんて、この人は、わかっているくせに。 「ねぇ、」 「何ですか?」 「…何を見てたの?」 雲雀さんが身を起こして、わたしは寝転がったまま、向かい合わせになった。わたしに覆い被さる形になった雲雀さんの、黒い髪より上、蛍光灯の光が眩しい。 「何をって、外、」 「明かりを見てただろう?」 雲雀さんの目が細められた。片手がわたしの頬を撫でて、ぶるり、身震いをすると、雲雀さんがクスクスと笑う。わたしははあ、と息を吐いた。目の前の黒いガラスのような瞳は、けして曇りはしないけれど。 「似てると思ったんです、」 「何が?」 「世界の、おわりに、」 わたしが言えば、雲雀さんは首を傾げた。 「だって、今年が終わるでしょう、」 「まあね。」 「少し違う感じがするんです、街も、明かりも、暗闇も。」 「へえ、」 雲雀さんが真っ直ぐわたしを見て、その後、わたしの首に唇をよせた。 「あ、ひばりさ、電気、」 「そういう明かりのひとつだと思えばいいよ、」 クスリ、笑った雲雀さんの息が耳たぶにかかった。 街の明かりは寂しげで、けれど暖かく。それは終わりゆくひとつの流れに対するものか、始まる新しいそれに対してか。そういう明かりのひとつには、この部屋も含まれている。 「今年が終わるね、怖い?」 「…少し、でも、」 世界のおわりに似ている。そういう暗闇、そういう明かり。 「雲雀さんがいてくれるのでしょう、」 ちらり、雲雀さんが時計を見る。そうだね、と雲雀さんが笑って、わたしの唇にキスをした。 |