「私のために見てください」


そんなちぐはぐな訳を、どこかで聞いた。単語を区切って訳を当てはめるのならば、それは間違いではないけれど。その訳を口にした女生徒は首をひねった。私のために見てください。清給我看。つまりは私を見てください。


(給、〜のために。だから間違いではない。)


私を見てください。日本語ならばその淵に、そういう感情を上手く隠せる。私のために、言葉を解いてしまえば、つまりはそういうこと。


(私のために見てください。)


ノートの端に書いて、それからそれを塗りつぶす。白いノートに黒のぐちゃぐちゃが、どうにも不恰好。塗り重ねるたびにどんどん、沈んでいく。乾いた黒はあの人には程遠く。だからその下の感情は、きっとそこで留まったまま。あの人は遠い、違う地にいるもの。


(私 を 見て、)


私のために。ノートの端に黒く渦巻いたそういうものを、禍々しいものを見るような気持ちで、認めることが出来ず。黒い粉を払い落とせば、掠れ飛び散ったその先に、黒が沈んだ私の手があった。




潔癖な恋