しあわせとはどんないろかしら。


あたたかな橙色かしら。
ひろがる空色かしら。


たぶん、わたしのしあわせはそのどちらでもなくて、きっと、目の前の黒なのだと思う。



少し硬い黒髪に触れると、雲雀さんはくすぐったそうに身じろぐ。
昔に比べると随分短くなった雲雀さんの髪は、随分長くなったわたしのそれよりも黒く、夜闇を溶かしこんだように深い。けれど触れればあたたかく、指先から、この夜に溶けてしまうのではないかと思った。


「イーピン。」


くつりと、雲雀さんが笑った。薄い唇が、弧を描き、閉じられていた瞼がゆっくりと開かれる。


「僕は子供かい?」


わたしを見上げる瞳も、黒。沢田さんなんかは茶色がかっているけれど、彼は純粋に黒だ。奥底を晒さずに、どこまでもおちる黒。
彼はほんとうに、人間の身体に夜を溶かしたかのようだ。溶かして染め上げ、なおも流れる。
それは冷たい夜ではなく、あたたかな夜。穏やかな暗闇。
包まれる体温に安心して目を閉じた、その瞼の裏に広がる暗闇のような、撫でるように過ぎ行く夜のような。


「子供みたいです。」


わたしが笑うと、彼はちいさくため息をついた。だって仕様がない。雲雀さんはわたしに膝枕をさせてその身を預け、わたしが頭を撫でればくすぐったそうに、けれど嬉しそうに口元を上げるのだから。


「雲雀さん。」

わたしが呼ぶと、雲雀さんはなに、とわたしを見上げる。
わたしは雲雀さんの黒い瞳にうつるわたしを見つめた。


「しあわせは、こんないろかもしれません。」


彼の瞳にうつるわたしが笑う。
彼はすう、とわたしを閉じ込めるように目を細めて、手をわたしの頬に伸ばした。あたたかい指先が、優しくわたしの頬を撫でる。
触れた先が、ゆるく熱をもつ。


「じゃあ、僕にはこんないろだ。」


あかくそまったわたしの頬を指さして、雲雀さんは、わらった。



しあわせといろ