それは穏やかな晴れの日だった。
あたしが初めて見た青空で、あたしが初めて見た外の世界だった。
埃っぽい乾いた大地に描かれた、巨大な陣の真ん中で、あたしはそのときを待っていた。


「…いい天気、って言うのかしら。」


ぽつりと呟いた言葉は、陣のまわりで慌ただしく動く人々にかきけされた。

派閥のあの、魔王召喚のための薄暗い森から出たことのなかったあたしには、白い綿のような雲が流れる青い空も、どこかでさえずる鳥の声も、果てしなく広がる荒野さえも、新鮮に見えた。


「広いなぁ…。」


あの雲はどこへ行くのだろう。さえずりはどこへ消えるのだろう。荒野はどこまで続くのだろう。

足元の、巨大な陣を見つめる。はるかに上の、青空を見つめる。


(ちっぽけだ…。)


この世界に未練なんてなかった。
魔王を召喚するためだけに生きてきた。
この世界を、滅ぼすために。


「…なんで、」


あたし、この世界を滅ぼすのかな。


誰かが声をあげた。陣を取り囲むように、召喚士たちが並ぶ。


「魔王召喚の儀を、」


父上が何かを叫ぶ。人々が手を挙げる。


「…魔王を、」


ひとりぽつんと陣の中心に立つあたしには、人々が手を振っているように見えた。



さよなら世界、また明日